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第24話 俺に任せろ

last update Last Updated: 2025-05-11 12:33:08

「ねぇ、どうしても理事長室へ行かなければならないのかしら?」

腕を引かれて連行? されながら前を歩くジョンに尋ねる。

「当然だろう? 校内放送で呼び出しを受けているのだから」

ジョンは私の方を振り向くこともなく、ズンズン歩いてゆく。

「だけど理事長室へ行ってもますます状況が悪化しそうな気がするわ。行かないほうがいいと私の勘が訴えかけているのよ」

何とか理事長室へ行くのを回避するべく、必死になって言い訳する。

「何を訳の分からないことを言っているんだ? 大体記憶喪失者の勘ほど当てにならないものはない」

バッサリ切り捨てられてしまった。

「それにユリアだって退学はしたくないだろう? あんなに望んでこの学園に入学してきたのだから」

「私は今記憶喪失なのよ? 望んで入学してきたと言われても、そんなこと覚えているはずないじゃない。大体今の私にはこの学園に少しも未練はないのよ? それにむしろ退学したくないのはジョン、貴方の方でしょう?」

「……理事長室というのは随分遠い場所にあるな……」

私の言葉を無視するジョン。

「ちょっと! 聞こえないフリしないでよ! それに私は何も悪くはないのに……」

するとピタリと足を止めるジョン。そして振り向いた。

「ユリア。聞こえたぞ? 今自分は何も悪くないと言っただろう?」

「ええ、ついでにその前には退学したくないのは貴方の方でしょうとも言ったわ」

「その話は今は関係無い。それより問題なのはユリアの方だ。自分がどんな罪を働いたのか自覚が無いのか? さぁ、今すぐ思い出せ」

余程私に退学処分を受けさせたくないのだろう。ジョンは私から視線をそらすことなくジリジリとにじりよって来る。その様子を興味深げに見ている学生達。

ちょ、ちょっと……!

「おい、見てみろよ。悪女が追い詰められているぞ?」

「あら……素敵な男性じゃない」

「私もあんなことされてみたいわ……」

ささやき声が聞こえてくるも、止めに入る人物は誰もいない。そして完全に壁際に追い詰められた私。ジョンは壁に両手をついて私を囲い、耳元で囁く。

「どうだ? 自分の罪を思い出したか?」

「お、思い出せるはずないでしょう!? 大体私は記憶喪失なんだから!」

「仕方ない……思い出せないなら教えてやろう。そもそも俺という替え玉を使って魔法学のテストを受けたこと自体が罪だ。そう思わないか?」

「な、何言ってる
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  • 記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした   第21話 私の選択肢

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  • 記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした   第20話 恨むわよ?

    「ああ、何だ。そういうことだったのか……確かにあの場所は通行の邪魔になったかもしれないね。どうもユリアがご迷惑を掛けてしまったようですみませんでした」ジョンが素早く私に目配せしたので、私も彼にならって頭を下げた。「申し訳ございませんでした」顔を上げたジョンは私の肩をグイッと抱き寄せた。「ユリア、良い席が取れているんだよ。一緒に行こう」「ええ、そうね」呆気にとられている彼等に背を向け、歩きかけた時……。「ちょっと待て!」背後から鋭い声を投げかけられた。すると再びジョンが私の耳元で囁く。「ユリアお嬢様は何も話さないで下さい」「え? ええ……」一体ジョンは何をするつもりなのだろう? けれど私はあの人達のことをまるきり知らないので、ここは全てジョンに委ねることにした。「はい、何でしょうか?」ジョンは私の肩から手を離すと、振り向いて返事をした。「お前……一体何者だ?」金の髪の青年は何故か敵意をむき出しにした目でジョンを睨みつけている。「俺ですか? 今日からこの学園に転校して来たジョン・スミスと言います」明らかに偽名と思われる名前を堂々と名乗るジョン・スミス。しかし、そんな名前を疑いもせずに金色の髪の青年は私を指さしながら厳しい声でジョンに尋ねた。「何故、その女にかまう?」「かまうも何も俺とユリアは同じクラスメイトになったので、2人で一緒にお昼ごはんを食べにこの学食へ来ただけですけど?」すると金の髪の青年は腕を組むとニヤリと笑った。「そうか……君は転校生だからその女のことを何もしらないのだろう? いいだろう、教えてやろう。その女はなぁ……」この人は私のことを知っている……。一体何を話すのだろうか? 緊張しつつ、次の言葉を待つ。すると——「いいえ、結構です。別に知りたくありませんから」ジョンが即答した。「何!?」「え?」私と金の髪の青年が同時に声を上げる。「な、何故だ? お前はその女がどんな人間か知りたくないのか!?」青年はジョンに訴えかけるように語る。はい! 私も勿論そうです。自分のことが知りたいのに……何故、何故止めるの? ジョン!私はじっとジョンを見つめ、目で訴えた。私の護衛なら気持ちが伝わるでしょう? 私は自分が何者なのか知りたいのよ!それなのに……。「おい、ユリア。お前……何故そんなすがるような目で

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